【釣り師の本棚】釣り本の本で良書を探そう

釣りに関する良書はたくさんありますが、それらをまとめた「釣り本の本」というものはそう多くはないでしょう。

そんな貴重な本の一つが今回ご紹介する「釣り師の本棚」になります。この本のタイトルもいいですよね。

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「釣り師の本棚」中里哲夫を読む

「釣り師の本棚」とは

本書は雑誌「北海道のつり」に平成14年から毎月連載されたものを書籍化したものになります。

そのコンセプトを要約すると「釣りに行けない日を楽しく過ごすための本棚」。

全54冊が紹介されています。小説、エッセイ、写真集、ガイドブック、図鑑などジャンルは多岐にわたります。

そして、つり人であれば避けてはとおれない自然保護や外来種問題などを取り扱った書籍も紹介されているところが、釣りをただ単に魚を釣るという観点からではなく、自然と一つになって楽しもうとする著者の姿勢が表れていますね。

装丁は和紙のような高級感のあるもので、外カバーを外したくなるくらいです。巻頭にはカラーでおもだった本が紹介されています。個人のコレクション感があって、これからどんな本が登場するのかワクワクしてきます。

古書として在庫は豊富なようなので手にすることは容易でしょう。探してみてください。

著者の紹介

著者である中里哲夫氏は、札幌市西区在住で職業は医師。

北関東(群馬県)に生まれて幼少期は野に山に駆けずり回って虫を取ったり魚を取ったりしたみたいです。そんな経験がのちの著者の自然観をはぐくんだものと思われます。

初めての釣りは利根川でのウグイ釣りだったようです。そして何よりもはまったのが赤城山での昆虫採集で、最終から撮影に変わったものの、今に至るまで蝶を追いかけているとのこと。

2年を東京で過ごしたのち大学進学で札幌へ。北海道へ渡ることを「ブラキストン線を越える」と表現するあたり、生物を愛する著者ならではかと思います。

大好きな昆虫採集を続ける傍ら、一時期は登山にもはまり各地を転々としたそうです。

そして本格的に釣りを始めたのは学校を卒業してから。美唄でのヘラブナ釣りから始まり、ニジマス、アメマス、イトウをフライ、ルアーで釣るようになります。最近では道北、道東の湿原でイトウを追うのと同時に、花や野鳥も愛でる生活を送られているとのことです。

紹介されている本から

北海道在住であり、かつイトウを狙う著者ならではの選書となっています。北海道に住んでいる人であればなおのこと楽しめるのではないでしょうか。ここで紹介されている本をいくつかピックアップしてみましょう。

私が読んだことのない本で、この「釣り師の本棚」を読んで初めて知りぜひ読んでみたいと思った本を紹介します。

「和竿辞典」松本栄一

テンカラをやる私。とにかく気になるのが和竿です。

和竿とはもちろん、竹で作られた竿ということですが、フライの世界でもバンブーロッドは皆さんのあこがれだと思います。

その和竿「東作」の五代目にあたる松本氏が書かれたのが本書になります。

全13章にわたり和竿の前提知識から実際の製作法までが網羅されているらしい。これはぜひ読んでみたい一冊ですね。

いつか自分の作った和竿で大きなイワナを釣ってみたいものです。たぶん見える景色が違うはず。こうやって人は浪費を進めてしまうのでしょう。ちらっとネットで検索したけど、価格が桁違いですね。

「石狩日誌」松浦武四郎

多くの人が知っているであろう「石狩日誌」も実際に読んだことがある人は少ないはずです。かくいう私もその一人です。

石狩川河口からアイヌの人をお供に従えて遡行した記録で、江戸時代の北海道の文化風習の記述が多々あるのはもちろんのこと、川とアイヌの人とのかかわりも多く描かれています。

その当時は、旭川の神居古潭にチョウザメやイトウが悠々と泳いでいたそう。今の私たちには巨大な淀んだ流れとして石狩川は想像されます。当時の清々たる石狩川の様子は、こういった書籍でのみ知ることができるでしょう。

特に石狩圏に住んでいる人は読んでおくべき本なのかもしれません。早速図書館で借りてみようと思います。

「湿原のカムイ」佐々木栄松

著者の佐々木栄松さんは画家で釧路湿原をくまなく知り尽くしている人でもあります。開高健(私の釣魚大全)が釧路湿原にイトウ釣りに来た際に案内をしたことでもよく知られている人ですね。

湿原のイトウ釣りに憑りつかれたユニークな人たちが多く登場するみたいです。

まさに憑りつかれたように釣りにのめりこむ人っていますよね。そういう人はもう、生活が破綻していて、はたで見ている分には面白いのですが、ふと我に返ると自分もその一人になっている。

私はイトウを釣ったことはあるのですが、釧路湿原のイトウというものはまた別な特別な生き物のように感じています。いつかテンカラで遠征できたらと考えています。

まとめ:釣りをさらに楽しむために

本書の書き出しには開高健の言葉が引用されています。

釣り人は心に深い傷をもつ。その傷を癒すために、何度も何度も、川へ湖へと出掛けるのである。雨が降っても風が吹いても...。そして釣り人はその傷に気がつかない。

つり人は川で湖でその傷をいやせるのだが、では釣りに行けない日はどうすればよいのか。その答えは、巧みに表現された釣り文学の中にあるのでしょう。

文学ではなくても、商品のカタログやいまであればブログなどを読んで心を慰める人も多いのではないでしょうか。

どうせ釣りをするのであれば、とことんまでやりこんで、自分の釣りを美しいものまで昇華させたいものです。それを可能にするのはやっぱり言葉と写真に代表される「表現」なのではないでしょうか。

今後も良い本や写真に出会っていきたいものです。

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