どうすれば冒険家になれるのか?石川直樹著「最後の冒険家」

2022/05/14

雑記

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作家で冒険家の石川直樹さんが、同じく冒険家の神田道夫さんの熱気球太平洋横断の挑戦を描いたノンフィクション「最後の冒険家」をご紹介したいと思います。

一人の冒険家の生きざまを描いた作品として、たくさんの人に読んでもらいたいなと感じる一方で、「冒険家」についていろいろ教えてくれる本でもあるので、その感想を書いてみたいと思います。

21世紀の冒険家に求められるものとは?

はじめに、21世紀の冒険家に求められるものを3つ挙げたいと思います。

  1. しばりを設定するための経験と眼力
  2. 文章力、デザイン力などの表現力
  3. 自己プロデュース力

この「最後の冒険家」は、神田道夫さんの熱気球太平洋横断を副操縦士という立場で同行した石川直樹さんが著した本で、神田さんの人柄と経歴、熱気球そのものについて、出発までの経緯などについて、丁寧にわかりやすく書かれています。

でもこの本、ただの冒険ノンフィクションではありません。とても面白いことが書かれています。それはそもそも「冒険家」とは何なのか、についてです。

神田の熱気球太平洋横断の試みは、自分にとって冒険とは何かを考える一つの転機だった。「最後の冒険家」石川直樹著 p177 より

20世紀の冒険家と21世紀の冒険家


著者である石川直樹さんは、このような表現はされていませんが、神田道夫氏は冒険家の定義が変わる岐路上(20世紀の冒険家→21世紀の冒険家)にあった冒険家でした。

20世紀の冒険家に求められたものは、地図上の空白を埋めることでした。ひたすら前人未踏の地を求めて旅をするというスタイルで、当然命がけのまさに探検・冒険というものになります。

まだ誰も見たことがない景色を見るために命を懸けた人々のことを「冒険家」と呼びました。必要なことは、並外れた好奇心と体力でした。

よい意味で「バカ」である必要があったわけです。

それとは反対に、21世紀には前人未踏の地は残されていませんでした。そのような状況下で「冒険家」になることはできるのだろうか。

そのヒントを神田道夫さんの熱気球による冒険を通して石川さんが語っています。もうすぐ21世紀も四半世紀が経とうとしていますが、その間、結果を出せた冒険家がしてきたことと、求められる資質が先ほど挙げた3つのことだと思います。(あくまで私見です)

21世紀の冒険家に求められる3つのこと

しばりを設定すための経験と眼力


21世紀に地図上に空白地帯はすでにありません。じゃあどうやって冒険をするのかということなんですが、それは「しばりプレイ」です。

登山の例だとわかりやすいと思います。よくニュースでこんな言葉を聞きませんか。「単独」「無酸素」「○○ルート」などなど。要するに目的地は同じでも自ら縛りを作って、その目的地に到達することが大切になります。

この「しばりの設定」ですが、簡単そうに見えてとても難しいものです。明らかに無理なしばりを設定しても途中で挫折することが目に見えていますし、簡単すぎるとすぐに目的地に到達してしまいます。

エベレストはかつて、一部の選ばれしものが登ることができた、まさに冒険家の頂でしたが、今ではお金と健康さえあれば、だれでも登ることができる山になっています。

登山よりもわかりやすい例として、私も大好きなゲーム実況で考えてみましょう。武器を装備しない、仲間を連れて行かないなど普通の攻略法ではない、あえて難しい条件を自分で設定してクリアを目指します。それを「しばりプレイ」と呼びます。

通常だと40時間ほどでクリアできるゲームを、100時間、1000時間をかけてクリアするわけです。当然、時間を確保する必要もあるし、メンタルもやられるでしょう。それでも挑み続けるゲーム実況者はある種の「冒険家」といえるかもしれませんね。

石川直樹さんが定義する冒険家にもっとも近いかもしれません。

話を「しばり」の設定に戻しましょう。しばりを設定するために必要なものは、やはり経験になります。通常モードでクリアしたことがないゲームで縛りプレイは不可能です。通常モードで何度もクリアして、さらに大好きだからできるのが縛りの設定です。

しばりの設定に大切なことは以下の2点になります。

  • その対象が大好きでよく知っていること
  • デフォルトの条件から少しずつ強度を上げていくこと

文章力、デザイン力などの表現力


今回ご紹介している「最後の冒険家」は石川直樹さんがまとめた神田道夫さんによる熱気球太平洋横断の冒険ノンフィクションです。

石川直樹さんはその学歴・経歴からも明らかですが、文章力とデザイン力が並外れています。これら表現力が、神田道夫さんを冒険家にした、ということもできると思います。

冒険家の植村直己は皆さんご存じのように、とても情熱的で魅力的な文章を書くことができました。20世紀の冒険家は総じてインテリであり、特に文章表現力に長けていた人が多かったのです。

文章が上手であるばかりでなく、コミュニケーション能力にも長けていて、多くの人を巻き込んでいく魅力がなければいけなかったのが20世紀の冒険家でした。

ですが、21世紀の冒険家にはそれらが必要ありません。無口で文章が苦手でも、たとえ引きこもりでも、好きなことを突き詰める能力だけで十分です。なぜなら、ほかの要素はアウトソーシング(得意な人にお願いする)で可能だからです。

この本で紹介されている神田道夫さんはまさにそのようなタイプであり、自分で文章を書き、自己プロデュースをしたりなんかが苦手というか、それらのことに興味がなく、冒険そのものに一心不乱に打ち込むタイプだったようです。

冒険そのものにしか能力を発揮できない人も、神田道夫さんにおける石川直樹さんの存在のような、よきパートナーに巡り合うことができれば、「冒険家」になることが可能になったのが、21世紀でしょう。

文章も、デザインも、各媒体における表現も、自分が苦手な部分はネットを通して外注することが可能です。ここで考えなければいけないことは、自分がしたいのは冒険そのものなのか、それともプロデュースなのかであり、そこを間違えると結果を出すことはできないでしょう。

私は、臆病なただの引きこもりですが、冒険家の著作を読んだり、日々冒険している人の姿を見ることは大好きだし、その魅力を伝えることができたらどんなに素晴らしいだろうと思います。

だから私は、もし冒険家にかかわるとしたら、確実にプロデュース側になります。

さて、この項目をまとめると以下のようになります。

  • 冒険本体と同じくらい、文章力、動画や画像による表現力が大切
  • 今はネットを通じて得意な人にまかせることができる

自己プロデュース能力


先ほどの表現力の項目とかぶる部分はあるのですが、21世紀に冒険家としてやっていくには、自分をいかにプロデュースするのかがとても大切な要素になります。

ここではあえて、栗城史多さんという極端な例を挙げます。

私は彼に会ったこともないし、著作を読んだこともありません。テレビで見たり、ネット上に落ちている記事をザッピングしただけの考察なので、あまり深くないですが、参考までに読んでいただけると幸いです。

賛否はありますが、彼はしたかった冒険ができたし、よくも悪くも「冒険家」として有名になったことは事実です。それを可能にしたのは、自己プロデュース能力でしょう。

たしかに、画像を見る限りなかなか男前ですし、実際のご本人にもオーラみたいなものがあったのかも知れません。でも私には定かではありませんが、彼は経歴を詐称していたとも言われていますし、登山に関しても素人に近かったという意見もあります。

彼を批判している登山家の意見には、妬みも含まれていたと思います。

なぜなら、紛れもない事実として、エベレストに何度も挑戦できる環境を作ることには成功していたので、彼は自己プロデュースの才覚があったことは確かです。そして、むしろ、そちらの能力に秀でていたと思います。

冒険家をプロデュースする職業に就いていたほうが、命を無駄にすることもなかっただろうし、世の中のためになったかもしれませんね。

この項では自己プロデュースの大切さについて触れました。まとめるとこんな感じになります。

  • プロデュースがあって初めて「冒険家」が出来上がる
  • 冒険ができる環境を作ることができれば「冒険家」

まとめ:21世紀にも冒険の余地がたくさん残されている

ここまで、石川直樹さんによる「最後の冒険家」を紹介しながら、今の時代の冒険家に求められる資質について考察してみました。

地理的な冒険が消滅した現代の冒険とは、この世の誰もが経験している生きることそのものだと僕は思っている。日常における少しの飛躍、小さな挑戦、新しい一歩、そのすべては冒険なのだ。「最後の冒険家」石川直樹著 p181 より

石川さんも書かれていますが、ごく身近なことでも、自分が初めて経験することはすべて冒険なんです。そしてその身近で新しいことを通して自分が「冒険家」になるためには、今回挙げた3つの資質が必要になると私は感じています。

でも、それらすべてを兼ね備えている人はほんの一握りの天才であり、私たち凡人はそれを求めてはいけません。何か打ち込むことを持っている人はそれだけを極めつつ、プロデュースしてくれる人を探しましょう。

そして、何にも夢中になれないけど、何かに夢中になっている人が好きだったり応援したい人は、プロデュースする側にまわってみましょう。

熱気球の神田さんのように、自分の魅力に気づいていない、もしくはうまく表現できていない21世紀型の冒険家は身の回りにたくさん存在しています。そんな人に声をかけてみても面白いかもしれませんね。

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