【湯川豊著「約束の川」】川の息吹を感じる名短編集をのんびり読む

2021/10/11

釣り文学

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いよいよ、秋の釣りシーズンですね!

渓流は色づき魚は肥える秋!

でも釣りに行けない、そんなわたしのような人に

おすすめの一冊「約束の川」をご紹介します。

「約束の川」ってどんな本?

・著者:湯川 豊

・初版年月日:2020/3/16

・ページ数:271ページ

・ジャンル:釣りエッセイ

本書「約束の川」の概要

雑誌「Fishing Cafe」に著者が寄稿していた巻頭エッセイをまとめたものです。著者が釣り歩いた日本各地の渓流を釣果だけではなく人との出会い、奇妙な出来事、失われていく自然などを淡々と描写しています。私は著者のことは存じ上げなかったのですが、大学で文学を教える先生だったようですね。ですが、堅苦しい表現はなく簡易な表現で渓流の美しさと釣りの興奮、川で起きたちょっとした事件などを書き記しています。全体は短編の構成となっており、各篇5分程度で読めてしまうので、気晴らしにもってこいです。手元に置いておいてふと釣りが恋しくなった時に気軽に開くことができる、そんな一冊になっています。


こんな人におすすめします


・釣りの体験を誰かと共有したいひと

釣りあるある満載で、ついうなってしまいます。


・長く難解なものは欲していない人

深く考えずに気軽に読むことができます。


・釣り場が減った、環境破壊に憤っている人

怒っても仕方がない境地がここにあります。


印象的なシーンとフレーズ


川を歩いていてそういう場所に来ると、そこにはっきりと魚がいるはず、と目の色が変わり、護岸に取りついて動かなくなる。そういうフライ・フィッシャーマンを、僕は「護岸派」と名づけた。「約束の川」湯川豊

護岸派の巨匠」もしくは「護岸王」。笑

モンテクリスト伯の「巌窟王」になぞらえた、護岸もしくはコンクリート堰堤が大好きな釣り人を指す、著者が作った造語です。

かくいう私も護岸王。

自然が作った流れや淵、背なんかも当然好きだが、あのコンクリートが川に深く刺さった、黒く光る深淵を凝視していると、そこにどんな怪物が揺らめいているのか、想像力を描き立たれます。

そして、作中の護岸王(宇田氏)のように、無駄に粘る羽目になります。

対照的に著者湯川氏は護岸に住むヤマメを「団地住まい」と表現し、ひたすら護岸以前の川の在りし日の姿を想像するのでした。

確かに、人里離れた厳しい渓流を登った先に、巨大な堰堤があると辟易することもざらにありますが、大物がついていることも多く、遡行の折り返し地点としてもいい道標となってくれます。

あなたは護岸派でしょうか。それとも自然派? いや、護岸王?


あの西洋の庭園のなかにいるような流れも、満開のサクラの木々も、そしてフライ・ロッドを振っていた女性の姿も、いまになってみれば夢のような不思議なことだった。「約束の川」湯川豊

なぜか中型のニジマスがつぎつぎに釣れる区間がある。

そして黙々とそのニジマスに毛バリを掛ける美人フライフィッシャーがいる。

もう出会えなくなってしまった風景は思い出の中で美化され続けより魅力的になる。

その気になればその場所へは行けるはずなのに、関わった人、季節、その日の風や空気のにおい、そんなものとセットになって記憶としてしまってある場所に、いざひとりで赴いてその記憶を上書きしてしまうことほど、哀しいことはないかもしれません。

毎回がそれっきりのもの、だからこそ今日という日を大切にしなければ、と思います。

釣りのフィールドは毎回そういう気持ちにさせてくれます。


わたしの読書感想文

雑誌の巻頭エッセイをまとめたものということで、手軽に読むことができるさわやかな短編が多く収録されています。

著者は30代から釣りを始め、1970年代から現在までに多くのフィールドに立ち、様々な経験をしてきた釣りの大先輩にあたる人。

釣り場で遭遇する奇妙な光景や人々、やたら釣れすぎて怖くなった話など、私のような一般の釣り人でも経験するけどうまく言葉にできないことを的確に表現してくれいるので、なんだかスッとします。


水の味について」という短編で描かれている、渓流にはうまい水とそうでもない水があるというのは多くの人が納得のことだと思います。

私も土手から染み出す水でコーヒーを入れて飲んだことがあります。

作中に、イギリス人は水の味がわからないらしいという一説がありますが、果たしてどうなのでしょうか。

私たち日本人は、ほとんど水を食べているといってもいいようなものを好物としてきました。

豆腐なんてまさに水そのもの。日ごろよく食べる大根、なす、キュウリもほとんど水を食べているようなものです。

その水を生み出した環境に注意を向けて、なんでおいしい水が生まれるのか、なんて考えるのは日本人独特の感性なのかもしれませんね。


コーヒーがおいしい水はお米を炊いてもおいしい。

そして、著者も触れていますが、おいしい水で育った魚もおいしいに違いない。

そんなおいしい水が流れる渓流が減ってきているのも現実として受け止めなくてはいけません。


いくつか興味深い短編がありましたが、第3章の「先行者たち」に紹介される作家たち、そして「この一篇を読もう」もたいへん参考になりました。

文学者目線で見る、釣りに熱中した過去の文豪たちが紹介されています

マルタウグイにエロスを見出した佐藤惣之助。この項は釣りの新しい側面を私たちに見せてくれます。

そのほか、私も大好きな開高健、井伏鱒二、山本素石も紹介されています。


さて、この約束の川はどちらかというと平成の釣りエッセイです。

開高健、山本素石、両氏のようなばりっばりの昭和のにおいは感じられません。

断然昭和派の私は、本書にそこまで熱中はしませんでしたが、とても読みやすくさっぱりしているのでぜひ手に取ってみてください。

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