【岩手の釣りエッセイ】イーハトーブ釣り俱楽部を読んで寸暇に渓流釣行!

2021/10/06

釣り文学

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都会での仕事でへとへとになったとき

ふと思い出すのはどんな光景でしょうか。

昔川であそんだことをよく思い出す、そんなひとも多いはずです。

そういった方にお勧めなのが今回ご紹介する本です。


「イーハトーブ釣り俱楽部」ってどんな本?


  • 著者:村田 久
  • 初版年月日:2019/10/21
  • ページ数:272ページ
  • ジャンル:釣りエッセイ

本書「イーハトーブ釣り俱楽部」の概要

主に岩手(遠野、西和賀、三陸地方)での渓流行を丁寧に描いた釣りエッセイです。穏やかでわかりやすい文章が特徴。特に渓流の描写が巧みで、川釣りが好きな人にとっては言いえて妙といった文章が続きます。人物描写も東北のボクトツとした雰囲気がひしひしと伝わってくるもので、他地域での釣りとは一線を画していることが、東北での釣り経験がないわたしにも手に取るようにわかりました。渓流で起こる何気ない出来事から、河童、密漁、幻の大物、そういった川にまつわる事件がこと細かに描かれていて、読み手を渓流に誘ってくれます。


こんな人におすすめです

  • 東北の山村や渓流に興味がある人
  • がつがつしているのが苦手な人(著者はさっぱりとした釣り人です)
  • 釣りに限らず、素朴なエッセイが好きな人


印象的なシーンとフレーズ


人間には悪臭であっ ても、魚にってはむしゃぶりつきたいほどのいい香りでごちそうなのに違いない。ゲテモノ食いといえばそうだが、厳しい自然環境にあってはそんな悠長なことなど魚たちはいっていられないのだろ う。カメムシごとき、考えてみれば人間だって相当のゲテモノ好きではある。「イーハトーブ釣り俱楽部」村田 久
屁っぴり虫」からの一文

私も一度、フライフィッシャーが特大のカメムシ毛ばりをトロ背に落としているのを見たことがあります。その男性も、過去に水面に落ちたカメムシに飛びつく特大のニジマスを見たことがあって、それで自作したんだ!とおっしゃってました。まだその毛ばりで釣ったことはないそうですが、いろいろ試してみたくなるのが釣り人というもの。でも、私も、いくら釣れるとはいえ生のカメムシで釣りをしようとは思わないかな。



水面を滑る毛バリが、朝の光の中に小さな生き物みたいに震える。ガラスのような透明な流れだ。 イワナ、ヤマメの魚影はない。それでもあの一瞬、魚が水を割って飛沫を上げるシーンが言いようのない誘惑となって、いつもぼくを引きずっていく。「イーハトーブ釣り俱楽部」村田 久
なんだか風景画を眺めているような描写です。

こういった飾り気のない素朴な表現がいっそう渓流の様子を的確に読者に伝えてくれます。


まとめとして:かんたんな読書感想文

作者の岩手への愛、そこに暮らす人々への愛、釣りと川への愛、それらが淡々とした語り口から滔々と語られるのが本書の特徴です。

短編集であり、それぞれ10分程度で読めてしまいます。

ちょっと気分転換したいときや、仕事の休憩時間なんかにさらっと読めて、すさんだ心を一瞬美しい渓流の空気で満たしてくれるでしょう。

余計な比喩やうんちくもなくさっぱりした飾り気のない文体で非常に読みやすい。

そこが、多くの読者の共感を得る所以でしょう。

カバーイラスト(幸山義昭)も作者の世界観そのままでよくマッチしています。


追憶の遠野行」にて語られているカッパ淵伝説は、果たして魚なのか、カッパなのか?

作中の竿やラインの動きを見ている限り、渦にラインが引き込まれ、それが魚がグイグイ引いているような感触になっている、そう思われるので、やはりカッパはいないのか、とわたしは思ってしまいます。

でもそんな事実を知りたいわけではなく、そういった口伝が多く残されているのが、岩手の渓流の魅力の一つ。

登場する婆さんのなんと不気味なことか。ちょっとホラーな短編です。


開高健山本素石なんかのあとに読むと、さっぱりしすぎていて若干物足りないというところもあり、好みははっきりと分かれると思います。

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