国内はもとより、世界中を旅し釣りをした作家夢枕獏氏の釣りエッセイ、海外篇です。
あまりガツガツしていない、のんびり気ままなスタイルが特徴の釣り人。
エッセイを読むと、その人が釣りに対してどのように考えているか、哲学みたいなものに触れることができます。
さて、「入れ喰い」に遭遇できたのでしょうか?
「本日釣り日和ー釣行大全海外篇」ってどんな本?
・著者:夢枕獏
・初版年月日:2014/10/21
・ページ数:126ページ
・ジャンル:釣りエッセイ
本書「本日釣り日和ー釣行大全海外篇」の概要
モンゴル、アンデス、ニュージーランド、イギリスなどなど、世界を釣り歩いた作家、夢枕獏氏の軽妙な釣りエッセイです。ロマンとか風情とか、流儀みたいなものはあまり感じさせない普段着な釣りが、読んでいて清々しくもあり、もうちょっとキチンと釣りをしてほしい!というもどかしい気持ちにもなったりする、ちょっと不思議なエッセイです。本業である作家業の合間の息抜きと考えると、これくらいの熱量でバランスが取れるものなのでしょうか。技術的なことやこむずかしい考察は書かれていません。旅先での出来事、現地の風俗、そして釣りといった感じの旅行記と言えます。
こんな人におすすめします
・バブル時代の釣りがどんなものだったか知りたい人
・どちらかというと軽妙な文体を好む釣り人
・釣りは知らなくても夢枕獏氏のファンの方
印象的なシーンとフレーズ
何故なら、神は、キャスティングしない者には味方しようがないからである。「本日釣り日和ー釣行大全海外篇」夢枕獏著
釣り人が使う言い訳の代表格のような一文です。
次の一投で人生が変わるかもしれないと思い、とめどなくキャスティングを繰り返すのが釣り人です。
そして、質の悪いことに、本当に最後の一投で最高の大物が釣れてしまうこともあるから、中毒性があるのです。
そして、それがこの「釣りの神様」実在説を裏付けてしまうのですね。
同時にエサ釣りと毛鉤釣りもできるという、(中略)エゲツないスケベな仕掛けである。「本日釣り日和ー釣行大全海外篇」夢枕獏著
開高、椎名両氏の流れをくむ軽妙な表現です。
著者の基本スタイルは、4.6メートルののべ竿に鮎用の毛ばりとハヤ用の素鉤(すばり)、それに玉ウキとガン玉のかみつぶしという、確かにどう見てもえげつなくてスケベな釣り方なのですが、とかくスタイルに縛られがちな大人にとって、本当はやってみたい釣り方なのかもしれません。
ここは意見が分かれるところでしょう。
縛りがあるから楽しい部分、節操無しになってしまうと台無しになってしまうモノは存在すると思います。
たまにはこんなスケベな仕掛けも試してみたくなるのが人間でしょうかね。
わたしの読書感想文
著者はとにかく精力的。その元気はどこからくるのか?というのが率直な感想です。
この本を読む前にちょうど手塚治虫のドキュメンタリーを見たのだが、それと同じ匂いがしました。
こういう人がフロンティアを切り開き、よくも悪くも世界を変えていくのかな、なんてことを、この本を読んでの最初の感想として出てきました。
引用のパートでも触れましたが、道具や釣り方にそこまでこだわりがないところが、著者の釣りの魅力の一つかもしれません。
フィッシングというよりは、川遊びスタイルの釣り方です。
4.6メートルの延べ竿で、なんていうか、自分の目が行き届く釣りの仕方で世界を釣り歩く姿は、純粋に釣りと川を遊びつくしているといった印象です。
80~90年代の中国、モンゴルの釣行記は、率直な感想としてうらやましいと感じます。
釣り場が荒れていないのはもちろんのこと、現地の生活がまだ残っていた時代。
グローバリゼーションに浸食されていない、昔ながらの生活がまだ残っていた頃。
そんな時代に世界各地に、仕事の一環として旅行し釣りもできた著者はなんともまぁ贅沢ではあります。
多くの短編が収録されていますが、なかでも中国での鮎釣りの話が印象的でした。
どこもかしこも濁った大河という印象がある中国に、はたして鮎はいるのだろうか。
特に、鮎釣りが大好きな著者にとっては、これ以上の興味をそそられる対象はないのではないだろうか。
釣りだけではなく、今とは違う当時のバリバリ共産下の中国、モンゴルを堪能しながらの釣り旅行は、読んでいるこちらもワクワクしてしまいます。
ですが、もっと詳細に書いてほしかったな、という思いは残りました。
ネタも豊富にあるだろうし、それを言葉にする技術にも卓越した著者なのだから。
やはりこのエッセイはあくまでも取材旅行の裏話的なものなのでしょうかね。
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