文章はとても読みやすく、そして中身はとても濃いです。
冗長さや無意味な修飾もされていない
簡素だけど知識とユーモアに富み、
達観した感はあるが温かみがある、そんな筆致。
めっちゃおすすめ。読んでよかった!
山野秋邨先生との出会い
著者の釣りと山歩きの師匠は山野秋邨先生。
在野の絵師で出会った当時、素石26歳、先生は40歳くらいか。
著者が師匠を一言で表すとこんな感じです。
ひとかどの偏屈で、癇癪持ちで、意地はあくまでもひん曲がっており、のびやかでないその性格が、正常な発育を妨げたのに違いない。
ひどい言いようですが、こんな批評をする著者も相当な曲者であることはわかります。
でも好きですけど。
強烈な秋邨先生との出会いとエピソードはつい笑ってしまいます。
はた目から見ると変な人同士の出会いと打ち解け、やはり人は引き合うものなのか。
三重、和歌山方面を師匠と絵を描きながら渓流を釣り歩きます。
3年間の漂泊生活でだんだん先生と似てくる著者。
ちなみにこの先生、絵師なのになぜか野営のプロなんです。
いったい何者なのだろうか?
以下先生の言葉。
雨の中でも雪の上でも焚火ができるようにならねば山へ入ってはいけないと秋邨先生は言った。
テントも寝袋もない野営生活の釣り歩きで、釣りの技術というよりはサバイバル術と東洋的な自然観など多くを先生から学びます。
著者も述べていますが、山窩(サンカ)のような立ち居振る舞いなのです。
毎晩、焚火の炎をはさんで多くのことを話し学んだそうですよ。
実際のところ、先生はどうやら後妻との折り合いが悪く、それがもとで流浪の生活送っていたようです。
皮肉なもので著者自身も後年、先生と同じような境遇になっていきます。
要するに、
妻との折り合いが悪く、渓流に逃げ込んだ。
これはほかの多くの釣り作家にも噂されていることですね。K氏、S氏など。
渓流に通う人は妻と不仲説、をぜひ某番組で取り上げていただきたい。
戦後間もないころの山の生活や逸話が多く記されています。
狐狸に化かされた話、妖怪や天狗、もののけの住む谷、ツチノコ伝説など、釣りとは関係のない話もたくさんあります。
釣りに限らず、山の話の本。
戦後間もないころ、高度経済成長が始まる直前までは日本にも秘境が数多く存在し、人は自らの里を守るためにいろいろな伝説を作り、よそ者を寄せ付けず守っていた、そんな逸話が多く収録されています。
奥美濃夜話で語られる「夜這い」の話は、おおっぴらに語ることのできない世の中ですが、かつて日本にもそんな時代が確実にあったということ。
今でもアジアやアフリカではそういった文化が残っている地域があります。
女性の人権や若年婚が問題とされているので、ここでは言及しませんが、かつて存在した文化ということで、我々も知るべきかなと。
どちらかというと見聞きした
民俗学の著
という趣がある短編集です。
最近読んだ中では最も印象に残った1冊と言えます。
コロナで外出規制も続いていますので、ぜひ手に取ってみてください。
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