ルソーの「社会契約論」をやさしく解説します【前編:自然状態から国へ】

2021/09/25

ルソー

t f B! P L

18世紀フランスを生きた思想家ルソー

その代表的な著作で、フランス革命に影響を与えたとされる「社会契約論

訳によっては難解なので、序盤の特に大事な部分、革命に向かう人々に影響を与えた部分を選び、わかりやすく解説してみます。

私は社会人になってから通信制大学で学び、哲学と文化人類学の授業を主に選択しました。

その過程でルソーも学びなおしたというわけです。

この記事を読むと、ルソーが考えた国家の理想像が理解できますよ。

「社会契約論」には何が書いてあるのか?

ルソーの肖像wikipediaより

「社会契約論」に書かれていることは

「国家と市民の関係性のあるべき姿」です。


ルソーが考えたあるべき姿とは

国と国民はお互いに対等な関係で約束をし、それぞれに義務を果たすべき

これがルソーの考えです。

とてもシンプルですよね。そりゃそうだ。

ルソーが生きた時代のフランスは、この関係がきちんと機能していなかったので、ルソーはいつもモヤモヤしていました。


この考えを補強するために、いくつかの側面からルソーは書いています。


1.そもそも、人間の本来の性質とは?

2.不平等はなぜ生まれたのか?

3.古来国家はどのようにできたのか

4.なぜ国民は権力に服従し、奴隷のようになってしまうのか。


こういったことを説明し、最終的には

国と国民はお互いに納得した対等な関係で約束をし、それぞれに義務を果たすべき

これを実現するためには

国民は団結し意見をまとめて、権力側とちゃんと向き合いましょう。

そう書かれています。


ここまで理解できていますか?

では以下の項目で、ルソーがその理論の根拠とした項目を挙げていきます。


1.人間の本来の性質とは?


自然状態

人間のいろんな活動の根本には「動物的な自己保存の衝動」があります。

何をするにも、まず自分の命が今日寝るまで続くことを考えます。

数万年前の人類は狩りをして、木の実を集めて、その日暮らしをしていました。

まさにそれです。

自分の命がまずは一番大事、というのは大昔の人も我々現代人も同じです。

この自然状態のもとでは当然、弱肉強食となります。


社会状態

ですが人間には憐みの気持ち、もしくは道徳感情があります。

困っている人がいると助けたくなりますよね。

怪我をして狩りや木の実集めをできない人に、余ったものを分けてあげることは、人間ならほとんどの人がするでしょう。

そうやってお互いに助けあい、それが大きく複雑になっていくと人は集まり共同体すなわち社会状態のステージに入っていきます。


2.不平等はなぜ生まれたのか?


社会性を身に着けて不平等がうまれた

先ほど人間が最優先するのは「自己保存」だと書きました。

それが、村ができて社会状態の中で生活をするようになると、時には「自己保存」の本能を我慢して、村のために奉仕活動をしなければいけないケースなども出てきます。

この自分の衝動を抑えることを、社会人になるとか、大人になるって今では呼びますね。

社会人になるとそれぞれに役割が与えられます。

役割が与えられると人はどうしてもほかの人と比較することを始めます。

「あぁ、Yさんは課長に昇進して家庭も築いているのに、僕はまだ平社員で付き合っている人すらいない…」現代だとこんな感じでしょうか。

比較を始めてしまうと、そこに「不平等」という言葉が誕生します。


不平等を加速させたものは?

ものを貯蔵することができるようになったり、お金が流通するようになると、富を蓄えることができるようになります。

こうなると、さらに不平等は拡大しますよね。

不平等になると何がおこるのかというと、社会的な立場の違いが生まれます。

お米倉庫の管理人と、そこで米俵を運ぶ人たち。

利用する人と利用される人、これが誕生します。


労働の分業化がもたらしたもの

さらに不平等を加速させるものがあり、それは労働の分業化です。

今の私たちが暮らす社会もそうですが、細かく役割が分かれてくるとさらなる不平等が生まれ、その不平等が固定していき、格差となっていきます。

その格差が、社会層を作ります。


分業化がもたらす、もう一つのものは自然状態への回帰を困難にさせること。

高度に分業化されていて、自分一人では生きていけない状態になっています。

これは、現代人ならだれもが実感しているはず。

もし共同体への参加が辛く感じても、自然状態へ帰ることができないので、逃げる場所がないのです。

この行き過ぎた分業化が人を社会に縛り付ける一つの要因になっています。


3.古来国家はどのようにできたのか


約束ベースの国家が生まれる

不平等が格差を生み出し、それが固定されて社会層ができるという話をしました。

その社会層は世代が変わっても受けつがれて(世襲)さらに盤石なものになっていきます。

そうなると、社会の下の層(労働者層)は利用される一方なので不満を持ち始めます。

そこで、上の層(支配者層)は提案するのです。

「衣食住は保障するし、何かあったら守るから、しっかり働いてもらえるかい?」

これが規則や法律が生まれた背景で、法律ができてそれを実際に取り締まったり実施したりする仕組みができると、初めて国家が生まれます。


権力は世襲され専制政治になっていく

こうして国家は生まれました。

国民に対して平和で快適な生活の保障をしていた支配者層は、世襲されていきます。

そしてどんどん国民の気持ちから離れていき、絶対的な権力をもつにいたります。

最初の約束とか、そもそもなぜ国家はできたのか、なーんてことを覚えている王様や貴族はもはやいなくなって、国家、すなわち自分たちが支配者でいられる環境を守ることだけを考えるようになります。

王様一族やとりまきの貴族のためだけに、何百万人という国民が苦しい生活を送らなければいけません。


4.なぜ国民は権力に服従し、奴隷のようになってしまうのか。


嫌なら国から出ていけばいいのでは?と思うかもしれません。

ですが、先ほども述べたとおり、分業が進んで役割が固定されていて、自然状態に帰ることもできないし、社会層という身分制度もあるので、自由に生きていくことは不可能に近いのです。

間違っていると思いながらも、国民はただ服従して生きていくしかないのです。

この状態がまさに、ルソーの生きた18世紀フランスでした。


でも、ルソーは国民側もただ黙って服従するべきではないし、それは間違っていると考えていました。

服従は楽な道です。

反対に、意思をもって行動することは勇気がいることです。

ここで一人ひとりが考えなくてはいけないことは、

自分の主人は誰なのか?

という問いです。


まとめ:自然状態から国家の誕生へ

今回は社会契約論の概要と、不平等がうまれた背景や国家の誕生についてルソーがどのように考えていたかを解説しました。

次回は、約束を守ってくれない国家に対して、国民はどのように向き合えばよいのか、ということが書かれている部分を解説していきます。


ルソーが生きた時代は専制君主制の時代。

そして、アンシャンレジームという身分制度。

国家が国民に何も保障せず、服従だけを求めた時代でした。

果たして国民にできることはあるのでしょうか?

次回そこを詳しく見ていきましょう。

お疲れさまでした!

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