今回ご紹介する本は「オーパ、オーパ‼モンゴル中国篇」
昭和の知の巨人、開高健の晩年の釣行記です。
背中の痛みに耐えつつ、釣れない中であーだこーだ思索を巡らせた記録です。
ゲルの中、野宿のテントの中、氏の世界は無限に広がります。
オーパ、オーパ!! ってどんな本?
- 著者:開高健 写真:高橋昇
- 初版年月日:1991/1/18
- ページ数:384ページ
- ジャンル:釣りエッセイ
本書の概要
小説家でジャーナリストの開高健が世界を釣り歩く「オーパ!」シリーズの後期にあたる釣りエッセイです。釣りエッセイとは言ってもメインは開高氏の日々の思索。
釣りはおまけみたいなものです。圧倒的な知識量とその経験で読者を崇高かつ陳腐な、ふしぎな世界に連れていってくれます。私が読んだのは図書館でかりた「モンゴル・中国篇」の大型本でした。ともにイトウを狙ってのたいそう大掛かりな、たくさんのお供と大量の撮影機材を抱えての大行軍となり、プレッシャーも相当のものだったと思われます。
こんな人にお勧めします。
・おとこのエッセイを読みたい人
・ウイスキーを片手にワイルドかつ博学な気分に浸りたい人
・昭和のおとこの姿を忘れそうな方(開高氏はやはり昭和の知識人の代表格だと思います)
・野営のさいに読む本を探しているひと
印象的なフレーズとシーン
三十五歳のときに東南アジアのジャングル戦から生還できたとき、よしこれから以後の人生はオマケだ、やりたい放題やったるぞ、と決心したもので、そのこころはよくおぼえているのだが、それから二十年、やっぱり切り売りと、妥協と、忍耐であった。うんざりだ。つくづく。う、ん、ざ、り、だよ。もう。「オーパ、オーパ‼」開高健
誰もがうらやむような才能とキャラクター、豊富な経験をもってしても、内側から見るとこういう感想になってしまうということに、ちょっと衝撃を受けました。ベトナム戦争取材後には当然大きな変化があったでしょうし、どこへ向かうのかも自由だったはずだが、いろいろなしがらみがあったのでしょう。なんだか複雑です。
ちがう時間軸の開高健も見たかった。
釣りエッセイもいいんだけど、個人的には文学の世界にもどってほしかった、と思ってしまいます。
悠久の歳月にわたる混交は美貌を生みだし、ときどき目を瞑りたくなるような美女を見かけることがある。髪が黒いのに眼が青いという美女である。ドブのふちで泥まみれになってころげまわる少女にもそれがある。その子たちは自分の美貌にまったく気がついていないので、それが何とも一滴の輝きとなって映る。そういう童女をたまに見かけると心がほぐれてのびのびとなる。今日一日何かいいことがありそうな気持ちになれる。今日はいい日になれそうだと、思えてくる。「オーパ、オーパ‼」開高健
ドブのふちで転げまわって遊ぶ少女の美貌。
これは僭越ながら私にもわかることです。エチオピアに住んでいたころ、毎日のように見ていた光景でした。エチオピアはまさに人種の混交エリアで、男子も女子もとても整った顔立ちの人が多く、肉感的というよりはその造形美のようなものに目を奪われていました。ぼさぼさ頭で顔に泥をつけて、道路っぷちでけんめいにあそぶ子供たちは今なにをしているのだろうか。しあわせに暮らしているのだろうかと、なつかしく思い出しました。あ、幼女趣味はありませんからね。
まとめ:かんたんな読書感想文
本文中で、モンゴル篇は2回遠征(1986、87年)しています。
1回目は豪雨に泣かされほとんど釣れずに、モンゴル側が用意してくれたゲルのなかでの観察や思索が主な内容になります。
多文化との比較で常人には思いもつかないような気付きも多く残してくれています。
翌年の遠征ではちがう河に入ります。
そこではイトウが入れ食い状態。
でも記録は伸びずに90センチ前後。そこで昨年ひどい目にあったチョロート河へ戻ってみることに。コンディションも前年よりはマシで見事に120センチ越えのイトウを釣り上げ、さすが、の一言。
モンゴルの草原に建てられたゲルの中で「東方見聞録」を読む。
なんて贅沢な時間なのでしょうか…
自身の、プラスチックに囲まれた部屋でめくるスマホ画面の薄明りと空虚さが、きわだちます。
中国篇は打って変わって大行軍、大宴会。
その理由はテレビの取材班が同行したからです。当時の中国との関係性もあってか、どこか日中友好のふんいきがちらほら見ることができ、ややおおげさですが、釣り外交のような様相となります。
目的のハナス湖にはネス湖同様の怪魚伝説があり、それを捕獲しようというのがねらい。
今の怪魚ハンター的な番組だったようですね。
目撃談によると12メートルの怪魚ということで、顔よりも大きいスプーン(ルアーの一種)を用意したり、捕獲用の特注の網と現役バリバリの漁師さんを同行させたりなどなど、どこまで本気でどこまでふざけているのやら。とにかくスケールのデカさには時代を感じます。
結果は…惨敗に終わります。
敗軍の将、兵を語らず。
最後の宴会では半ば自棄気味ではあるが、見事な親玉っぷりを見せて飲みに飲み、場をなごませる開高氏、さすがです。
当時の中国新疆省の様子が多くの写真とともに語られており、最近の様子を知っている人にとっては懐かしくうつるのではないでしょうか。
処女湖に竿を入れて、処女のままにして出てきました。
こんな昭和のおじさん下ネタで本編は締められています。
さて、釣りはする人によってまったく別物になります。
博識、野蛮、繊細、胆力、まさに昭和の空気を象徴する知識人のつり、それが「開高健の釣り」
そういう一つのジャンルを作り上げたこのオーパシリーズは、令和の青年にも読んでいただきたい、釣りをしらなくても十分にその魅力がつたわるものとして、強くお勧めして、今日はこのあたりでやめておきます。
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