【紳士の嗜み】エドワード・グレイ「フライ・フィッシング」を読んで「釣り貴族」に

2021/09/19

釣り文学

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オフシーズンにぜひ読みたい釣りの本として

今回ご紹介するのはエドワード・グレイ「フライ・フィッシング」

釣りに対する考え方を変えてくれる本だと思います。

フライフィッシャーはもちろん、ほかの釣りをしている人にも

読んでいただきたい、一読の価値がありますよ。


「フライ・フィッシング」はこんな人におすすめ


来シーズンからフライフィッシングを始めようと思っている人は、まずはこれを読んでほしいです。

やっぱりフライをやる人には紳士でいてもらいたい

と、テンカラをやる私が見ていて思うからです。

背筋を伸ばし、泰然と流れに立つフライフィッシャーはかっこいいです。

実用書としてではなく、バイブルとしてぜひ手元に置いていただきたい。


私のようにテンカラなどほかの釣りを楽しんでいる人にもおすすめです。

フィールドで見かけるフライフィッシャーがどんなことを考え、どんな作戦で釣りをしているのかが理解できるようになります。

同じ魚を釣るという行為なんだけど、アプローチによってかなり違うものになるということがこの本を読むとはっきりとわかりますね。

同じ毛ばりの釣りであるテンカラとも多くの違いがあります。

共通点を見つけながらも、私にとって新しい発見がいくつもありました。


本書の概要と著者グレイ卿について

ジェイムズ・ガスリー, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

現代的なフライフィッシングの技法と道具、釣りにまつわる様々な観察と感情について著わした草分け的な存在の本著。

フライフィッシングの具体的な方法についてはそれほど言及していません。

ですが、シートラウト(降海型ブラウントラウト)、鮭用の毛ばりやイギリスの伝統的かつ定番の毛ばりを写真付きで解説しているので、見ているだけでわくわくするものです。

そのほか、時刻や季節による釣り方の違いやプレゼンテーション(釣り場へのアプローチ)の方法など現在でも十分に参考になる基本的な毛ばり釣りの心構えが描かれています。


本書を深く読みこむためには、作者のグレイ卿についてざっくりとですが知っていたほうがすんなり内容に入っていけると思います。


ということで、まずはグレイ卿について簡単に解説。

イギリスの名家に生まれ若くして議員となり、のちに外務大臣となる政治家です。

彼が外務大臣(1905~1916)を務めたのは第一次世界大戦期です。

暇な私には想像もつかないほど多忙だったようです。

休暇になるとイギリスの田舎に滞在し、釣りやバードウォッチングを楽しみました。

ロンドンの喧騒から離れて、イギリス郊外のクリークで釣りをする。

彼が序盤で趣味について語りますが、現代のわれわれが使う趣味という言葉とは少し違って響きます。

BTO(British Trust for Ornithology)の設立メンバーで鳥類学者としても有名です。

また、テニスの名手と多才な方でした。

晩年は戦争に対する思いや妻との別れ、さらには目を患い釣りや自然観察ができなくなってしまうなど、つらい生活を送ったようです。


そして、訳者の西園寺公一氏について。

この方も日本の貴族出身です。

グレイ卿がオックスフォード大学の総長だった時代にオックスフォードに留学していたということです。なんという偶然か!

当時は一学生と総長という立場の違いから、当然面識はなかったようです。

この方も釣りが好きだったようですね。


鮮明によみがえる幼き日の釣りの思い出


7歳から餌釣りを始め、少年期に毛ばりの釣りを学び、寄宿学校(超名門!)時代にドライフライで初めての一匹を釣り上げ、大人になってからは束の間の休息として、または趣味としての釣り、そんな彼の釣り遍歴を一つ一つ記憶を思い起こすようにして丹念に描かれています。

やはり晩年になってはっきりと思い出すのは青春時代のことなんでしょうね。

初めて3ポンドのシートラウトを釣った時の描写なんかはまるで昨日のことのようです。


大物を逃した少年の気持ちをこんな感じで表現しています。

予想もしなかった大きな魚をばらした少年の苦痛がどんなものであるか、われわれの多くは知っているはずだ。その絶望で一生がめちゃめちゃになってしまったように思え、過去の楽しい思い出は消え去り、現在の失敗を償い得る成功など将来あるわけがないと思う。そして、あらゆる体制に反抗する気持ちになり、人間はどうしてこんな堪えがたいみじめな目に遭うために生まれてこなければならないのかと腹立たしくなる。(p146 第10章 若き日々の思い出 より抜粋)


40歳の私もこんな感じです。

あらゆる体制に反抗する気持ち。笑

そして逃げた魚は記憶の中で日々大きく育っていきます。

釣ったときの記憶よりも逃げた魚の影ばかりが頭にこびりつくんです。

釣り人ならだれもが共感できる一文ですね。


ということで今回はエドワード・グレイ著「フライ・フィッシング」をご紹介しました。

私が読んだのは図書館で借りてきた少し古いTBSブリタニカ版です。(最初の画像)

現在購入できるのは講談社学術文庫から出ているものですね。

ぜひ手に取って、姿勢を正してキャスティングをしましょう。

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